「 フリムン徳さんの ”ふりむんえっせー”」
       「キリスト様と仏様のお近づきの杯」    

仏教徒である私達夫婦が毎週1回2時間、カソリック教会のクリーニングの仕事
をすることになりましてん。嫁はんが主で、私は、たまにヘルパーとして行く
のやと思いまんねけど・・。「あんたはバランティアしたらええねん」と嫁はん
に言われると、「嫌や」とは言われへんねん。私が3年前に病になって仕事でき
んようになり、嫁はんが外で働き出してからは、「社長交代」しましたんや。
新しい社長さんの言うとおりせんとあきまへんのや。2月1日水曜日、初めての
教会のクリーニングに行きましたんや。家の近くのホロンという小さな山の中
の町のこれまた小さな古びたカソリック教会でんね。
 私たち夫婦はほとんど毎週日曜日、この教会に礼拝に来ますねん。6年前、
近くに住んでいるアメリカ人夫婦バブとアルビラと親しくなり、「私達は仏教
徒ですけど、英語の勉強がしたいので、教会へ連れて行ってくれませんか」と
頼んだのが始まりでした。ほんとの教会のメンバーみたいに熱心に通いました。
牧師さんの英語の説教はちんぷんかんぷんで、何のために来ているかとも思い
もしましたが、周りのアメリカ人が親切にしてくれるので、辞めるわけにもい
かず、今日まで続いているんです。礼拝の時よりも、その後ホールで、皆さん
が交替で作って持ってくるケーキやお菓子を食べ、コーヒーを飲みながら雑談
する時がええ英語の勉強になります。
 若者が来なくて、年寄りが多いのはどこの教会でも同じようですが、この教
会もそうです。年寄りばかりです。毎年一人、二人とメンバーは減っていくば
かりです。年寄りだけでは教会のクリーニングや、修理、維持は大変です。4
0歳代半ばの夫婦がバランティアで教会のクリーニングの仕事をやっていまし
たが、とうとう何かの理由で出来なくなりました。そこで、この教会のメンバ
ーの何人かの家でクリーニングの仕事をしている嫁はんに「お金を払うから、
やってくれ」と話が回ってきたのです。
 嫁はんのヘルパーとして、教会のクリーニングの仕事に取りかかった。毎週、
異教徒ながら礼拝には来ているものの、いざ、仕事をするとなると、なんで仏
教徒がカソリック教会のクリーニングの仕事をするんや、おかしいやないかと
いう気もする。これはきっと天国のどこかで仏様とキリスト様がお近づきにな
ったということやないかいな。
昨年から、アメリカはキリスト教中心の国ではなくなった。どの宗教もどの
宗派も平等になったんや。だから、クリスマスに言う"メリークリスマス"が"
ハッピー ホリデー"に変わったんや。さっそく嫁はんの仕事にも現実に効果
が現れたんや。
 もう一つ、キリスト様は心のやさしい方、仏様は心の大きな方と思いました。
私達夫婦は教会へ行く度に二人で5ドルずつお布施をしていました。「あんた
達は収入が少ないのに、毎回欠かさずお布施を続けてくれて有り難う。そのお
礼に私があんた達に仕事を与えよう」とキリスト様が、この仕事の少ない山の
中で、私達に仕事を与えてくれたと信じたいんや。また、仏様は、「キリスト
様の教会のクリーニングの仕事をする人がおらん、仏教徒であるあんた達が助
けてやってくれ。世の中は宗教、人種の違いにかかわらず、持ちつ持たれつや、
頼むよ」と言っているような気もする。
 この教会の作りは、天井は張ってなく、勾配のきついレッドウッドの屋根板
がむき出しだ。壁は全部、くすんだ黒っぽい茶色の古いレッドウッドで出来て
いる。アメリカにしては珍しくペイントをしない。木目が丸出しだ。古いレッ
ドウッド独特の鼻をつく匂いも人気がないと一層きつく感じる。正面に張られ
た大きなステンドグラスから薄暗い礼拝堂の中に外の光が差し込み、壁に吊る
された十字架がくっきりと浮かび上がっている。そこにキリスト様がおるよう
な気持ちになる。日曜日にはにぎやかな教会も、誰もいない教会は少し不気味
だ。嫁はんが「社長命令」で私を強引にヘルパーとして連れてきた気持ちがわ
かった。キリスト様は私たちの働き振りをジーッと見ているようだ。
 それは丁寧に掃除機をかけた。いつも座る自分の椅子のクッションをはずす
のも初めてや。クッションの下はオークの板でできている。いつも来て見てい
るのに、オークの板とは気付いていなかった。掃除をしたら、新しい発見がい
っぱい出てくる。薄紫色の布地の長いクッションは掃除機の跡目が綺麗に見え
るように、丁寧に真っ直ぐに掃除機を動かした。隅々は掃除機の小さい吸い口
で、綺麗に吸い取った。触ったこともない壁のステンドグラスは、嫁はんに言
われたように、細心の注意を払いながら、そーッと布で空拭きをした。
 家ではこんなに丁寧にしたことない、適当なモンや。嫁はんに怒られても平
気や。でも教会はキリスト様に見られているから手を抜くわけにはいかない。
何しろ、キリスト様は仕事をくれたお方様やし、仏様には「よろしゅう頼む」
と言われているさかいに。
フリムン徳さん

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徳さん」の出身地の鹿児島県大島郡喜界島の「小野津集落」は昔からの港でした。集落民の性格は豪放で発展性があり常に島外に目が向いていたようです。島外においては郷友会(郷土出身者の集い)の活動も盛んだということです。私も何故か縁あって知り合いが多いです。結婚式などにもお呼ばれしました。

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