「フリムン徳さんのアメリカ便り」第31号
「男の名前で生きていきます」
                                    

2007.3.21

ワテはフリムン太郎と申します。
姓も名もありますが、ワテは人間様ではありません。ワテは様付けで呼ばれなく、
ちゃん付けで呼ばれるネコちゃんです。ワテのおとうちゃんが作家の向田邦子が
自分の猫に"向田鉄"と名字までつけたので、その真似をしてフリムン太郎と名
づけらたのです。

ワテは太郎という名前をつけられた雌ネコであります。雌ネコなのに、男の名前
のネコと変わっていますが、毛色も変わってまんのです。シャムネコみたいに、
上品な毛色でもおまへん、三毛猫みたいに茶色と白黒でもおまへん。もらわれて
来た生まれて間もない頃はグレーがかった、ブルーの、それは珍しい色でしたが、
だんだんと大きくなるにつれ、ネズミ色が濃くなって、生まれて1年近くの今頃
はとうとう完全なネズミ色になってしまいました。ネズミを獲る取る猫がネズミ
色になった。これは、今はやりの地球温暖化のせいかもしれまへん、どうかお許
しください。

ワテのおとうちゃんも、「おとうちゃん」と"ちゃん"づけで呼ばれるからネコ
と思いはりまっしゃろうが、ネコではおまへん。おとう"ちゃん"と呼ばれても、
ちゃんとした人間様でおます。

おとうちゃんの名前はフリムン徳さんと申します。4年前までは立派な大工の徳
さんと「さん」付けで呼ばれていたのですが、長年のビールの飲みすぎで4年前
に痛風で倒れて、大工仕事ができん身体障害者になりました。ベッドの中で文章
の書き方を勉強して、「フリムン徳さんの波瀾万丈記」という本を出版してか
らは、「フリムン徳さん」と呼ばれるようになりました。

フリムンとは喜界島の方言で、常識を逸脱して行動をする人のこと、大阪弁の
" アホ"に似た言葉です。自分ひとりがフリムンと呼ばれるのは寂しい気持ちもあ
ったから、ひとりでも仲間がいれば心強いと思って私に「フリムン太郎」と付
けたようです。

私に男の名前を付けた理由はそれだけではありません。もっと深い理由があった
のです。彼は病気で倒れるまではバリバリの大工さんでした。59歳に倒れるまで、
26年間、大工とビール一筋にわき目も振らず、我が道を邁進してきた男はんで
す。嫁はんにも気を使うことも知りまへんでした。ところが病気になってからは、
目が覚めて、嫁はんにも、他人様にも気を使うようになりました。少し世間様の
男はんと同じようになったのです。特に、嫁はんには、今までとはうって変わっ
たように気を使うようになりました。

大工さんの頃のように、朝、早よう家を出て、夜遅そう、家に帰ってくるので
はありません、今は1日中、家でコンピューターに向かってエッセイばかりを書
いているのですから、息抜きの相手にワテを飼ってくれたのです。エッセイを書
きながら、うまく書けない時は今までは自分の頭を掻いていたようですが、私
を飼ってからは、「太郎、太郎」とうるさく私をしょっちゅう呼びつけて、撫
でまわして触りたがるのです。

ある日、ワテはおとうちゃんにアタスカデーロのペット病院へ検診に連れてい
かれました。おとうちゃんは医者にワテの名前を聞かれて"太郎"と言いました。
そしたら医者は「"とろ"ですか、おいしそうな名前ですねえ」とニヤニヤしな
がら、"トロ、トロ"呼んでくれました。その医者はすしが大好きでサンルイス・
オビスポのすし屋さんへ毎週1回寿司を食べに行くそうです。どうも、寿司好き
のアメリカ人には太郎はトロに聞こえるようです。ワテは、トロか、太郎か、どっ
ちをとろうか迷いました。

ワテは女ですから、男の名前よりは魚のトロのほうが皆さんに喜ばれるから、
ええなあとも思いますが、飼い主のおとうちゃんに命名権があるのですから、
どうにもなりまへん。
ワテは1年近くフリムン徳さんと住んで、なぜ女のワテに太郎"と男の名前"を
つけたかわかりました。おとうちゃんはエッセイが上手く書けないと、すぐに
" 太郎、太郎”と私を呼んでいます。1日中、朝から、晩までです。そうしたら、
私も「俺はひょっとしたら男かもしれない」と錯覚する時があるのです。私の
場合はそうです。ところが徳さんの嫁はんにしてみれば、また違う受け取り方
をするはずです。

たとえば、私の名前が女の名前で、「愛子、愛子」と徳さんが毎日私に呼んで
いたら、嫁はんはやきもちを焼くに違いありません。ワテは徳さんが女のワテに
「太郎」と男の名前をつけた理由がわかりました。フリムン徳さんはフリムン
でも立派なフリムンだと尊敬しています。だから、ワテは徳さんのためにこの
まま男の名前で生きていきます。


フリムン徳さん

徳さんのページへ戻る

 

「フリムン徳さんの波瀾万丈記」のご注文は下記へのご注文でも出来ます。(文芸社)
※電話、FAXでのご注文は以下の通りです。(受付時間 8:30〜20:00)
 TEL:03-3817-0711 FAX:03-3818-5969
※海外からは次の番号へ別途お問い合わせ下さい。 (受付時間 8:30〜20:00)
 TEL:81-3-3817-0711 FAX:81-3818-5959

此方の画像及び文章は制作者の許可を頂いて掲載していますのでご利用はご遠慮下さい。03.10.29

/ 前へ戻る / 喜界島.comへ戻る /   

     

無料アクセス解析レンタル掲示板無料ブログ作成掲示板/日記/ブログ無料