「フリムン徳さんのアメリカ便り」(第4号)「髭剃り後のクリーム」
                                    

2004.11.4

フリムン徳さんアメリカ便り第4号です。フリムン徳さん応援団の皆さん、いか
がですか。いつもお世話になっています。おおきに、ありがとうございます。

 日本は台風、地震のダブルパンチで大変ですね。これだけは自然の怒りですから
どないもできまへん。皆さんに被害がないことをお祈りしています。
 それにしてもニュースで見る日本の、人殺し、親が子を殺す、子が親を殺す、強
盗、引ったくり、泥棒、自殺、餓死、インサイダー取引、賄賂、政治献金、これはど
うなっているのでしょう。皆さんどうしてそんなに金が要るのでしょうか? どうも
人のことを考えない人間が増えたように思います。日本の国が大きく変わっていくひ
とつの前兆でしょうか。フリムンの私には分かりまへん。ただ分かるのは、日本は、
怖い、危ない、住みにくい国になって行きつつあると思えることです。困ったことで
んなア。

 それにしたら、フリムン徳さんの住んでいるブラッドレーの山の中は天国です。
家に鍵を掛けなくても大丈夫です。でも、ドアはきちんと閉めないとあきまへん。リ
スと野鳥の泥棒さんが家に入ってきて、フリムン徳さんの食べ物を食い荒らします。
 フリムン徳さんの未完成の家も、天井と壁の防音防熱材(インシュレーション)
を入れて、その検査がパスしました。来週からは外壁のモルタル張りや天井板、壁材
の張りつけ工事にかかります。
  工事はなるべく一人で、休み休みやるつもりです。しかし、天井板の張り付け
だけは一人ではできません。何しろ、天井板は畳と同じくらいの重さで、120cm
×240cmのドライウォールというものです。それを一人で持ち上げて天井のさん
に押しつけて、ネジで止めるのです。これは、一人ではできません。でも、フリムン
徳さんはそれをどうしても一人でやりたいのです。
 人の手を借りずに、自分の力も出さずに、楽をしながら、怠けながら、口笛吹き
ながら、楽しく仕事をするのがフリムン徳さんの理想の働き方です。それには、工夫
も必要なのです。
 今回の天井板の張り付けには、「スパイダーマン」を考案し、バブと二人で組み
上げました。重い天井板を一人で張る機械です。蜘みたいに天井に張りついて、自由
自在に移動しながら、天井板を張り付けていく人間という意味で、「スパイダーマ
ン」と名付けました。この機械「スパイダーマン」を見上げながら、「フリムン徳さ
んはフリムンじゃなくて天才じゃ」と、一人で心から満足しております。その内、こ
の「スパイダーマン」、有名になるかも分かりまへん。 前置きが長くなりました、
第4号のエッセイです、読んで笑って下さい。

「髭剃り後のクリーム」

 少し暑いから車の窓を開けて外の涼しい風に当りたいけど、我慢している。日曜
日の朝9時50分、嫁はんと私は教会へ向かっている車の中。仏教徒である私と嫁はん
はもう3年ほど毎日曜日、カソリックの教会へ行っている。家から、教会までだいた
い12,3分かかる。

 教会へ行く朝は必ずシャワーを取り、髭を剃って、髭剃り後のクリームを顔と禿
かけた頭にも塗りに塗る。アホなことをすると思いまっしゃろう。嫁はんも笑うが私
はかまわん。それには私だけの秘密の理由がおまんね。でも、クリームってたまに塗
るとええ匂いがしまんなあ。大工時代にいつも私の周りに匂っていた、材木の香りと
はえらい違いや。昔、大阪で商売をしていた頃、よう飲みに行った北新地の飲み屋
の、優しい女の子を思い出してしまうようなええ匂いや。            
                                
 この髭剃り後のクリームは香水と違って、1時間もすると匂いがなくなる。それ
ならば、香水をつけたらええと言うでしょうが、大工をしていた2年前までは、香水
よりも肉体労働後の男の汗の匂いが、男の香水やと思っていた男なのだ。男性用の香
水の名前なんか知るはずもない、ましてや買ったこともない。ねじり鉢巻で頭の禿を
隠した大工が、化粧品売り場なんかに、恥ずかしくて、寄り付けるかいな。嫁はんも
化粧にはこだわらん性質だから、香水とはお互い縁の遠い人生なのだ。

 向かっているのは、山の中の、大きなオークの林に囲まれた小さなカソリックの
教会だ。建物の外は、白く塗られているが、中は古い木肌のままで、なんだか田舎く
さい。椅子に座って周りを眺めていると質素な気持ちになる。友達のバブとアルビラ
がこの教会のメンバーだ。5年ほど前に知り合ったこのアメリカ人夫婦の家に、たま
に行った時は、ほとんどが英会話の勉強みたいなものだった。当時、嫁はんはほとん
ど、英語がしゃべれず、理解できなかった。ある日、「私達は仏教徒ですが、英語の
勉強のために教会へ行ってもいいですか。」と彼らに頼んでみると大歓迎してくれ
たのだ。

  この教会にいつもくるメンバーは15、6名で、教会の建物のように年とった
夫婦達だ。皆、親切な白人だ。東洋人の私達でも、なんの抵抗もなく打ち解けること
ができた。午前10時ピッタリに始まるこの教会の礼拝に遅刻する人はほとんどいな
い。大工時代にアメリカの職人たちが約束時間を守らないのにあきれていた私には、
不思議なくらいだ。

 この教会には専任の牧師がいない。メンバーが、交代で牧師役を勤めるのだ。少
ないメンバーだが、その中の6名ぐらいが牧師として、礼拝を仕切り、説教をする。
夫婦とも牧師役をできるメンバーもいる。ローマ法王が着る白いガウンみたいなのを
着て、すました顔で聖書を読んで、立派に、たまにはニヤニヤしながら礼拝を勤める。
足元を見ると、ジーパンとスポーツシューズが見える。ただの普段着の上に、牧師の
白いガウンを引っ掛けただけなのだ。なんとも、ほほえましく、親しみがわく。

 教会での自分の席は暗黙の了解で決まっている。私と嫁はんはバブとアルビラの
隣で前から3番目の椅子だ。6人掛けの長い椅子が真中の通路をはさんで両側に10
列ほど並んでいる。長椅子の背もたれの後には英語の聖書が入っている。礼拝が始ま
るとにわか仕立ての牧師が、聖書の何ページを開けてと言い、そして読み始める。ま
た、皆で読むことある。英語の聖書は、易しい英語で書かれている。それにしても、
仏教の本は、難しい言葉ばかりで書かれていて、分かりにくい。

 説教が終わると、木製のサラダ用の皿みたいなものを持って、お布施を集めに来
る。私達は毎回キャッシュで5ドルを入れる。メンバーの人は、ほとんどがチェック
を入れる。そのお布施の額は、自分の気持ちだけでいいということになっている。

 礼拝の最後には、椅子から立って、通路で、全員、互に「ハグ」をする。男同士
は握手、男と女、女同士はすべての人と「ピース、ウィッズ、ユー」と言って、抱き
合って「ハグ」する。白人のおじいちゃんもおばあちゃんも、私よりは背が高い。白
人のおばあちゃんとハグをすると、おばあちゃんの鼻先に、フリムン徳さんの頭が
来るのだ。まさに、この瞬間のために、フリムン徳さんは髭剃り後のクリームを禿げ
かけた頭に塗り、その匂いを風で吹き飛ばさないために、暑くても車の窓を開けない
で辛抱したのだ。
フリムン徳さん

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徳さん」の出身地の鹿児島県大島郡喜界島の「小野津集落」は昔からの港でした。集落民の性格は豪放で発展性があり常に島外に目が向いていたようです。島外においては郷友会(郷土出身者の集い)の活動も盛んだということです。私も何故か縁あって知り合いが多いです。結婚式などにもお呼ばれしました。

「フリムン徳さんの波瀾万丈記」のご注文は下記へのご注文でも出来ます。(文芸社)
※電話、FAXでのご注文は以下の通りです。(受付時間 8:30〜20:00)
 TEL:03-3817-0711 FAX:03-3818-5969
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