「フリムン徳さんのアメリカ便り」第74号
「日本人の恥と信用問題」
                                    

2012.4.10

「日本人の恥と信用問題」
 
 フリムン徳さんは今日、えらい失敗をしてしまった。68歳になって、また
行きだしたクエスタ・カレッジの英語クラスでのことである。
この英語クラスは、前回は金髪の別嬪さんもいっぱいおるだろうと期待して行
った英語クラスである。でも、実際は、フリムン徳さんの肌よりももっと黒い
中南米のオナゴはんがほとんどであった。ここは英語を話すアメリカや。アメ
リカの金髪の別嬪さんが英語を習うはずがない。このクラスに金髪の別嬪さん
がおるはずはなかった。フリムン徳さんの早とちりであった。

 週に2日ある午前中のクラスの出席者は大体15名から20名である。昼間のクラ
スだから、専業主婦で子持ちのオナゴはんが多い。コスタリカ、エクアドル、
ブラジル、フィリピーノ、メキシカンといろいろだが、大半はメキシコのオナ
ゴはんである。まだ小さな赤ちゃんを手提げかごに入れて、自分の横に置き、
赤ちゃんをあやしながら、授業を受けるメキシカン女性もいる。たまに赤ちゃ
んがぐずつくと、
「おお、私の生徒がぐずっている」
と言って白人の先生は笑わせる。

 気楽な英語クラスである。クラスに来るのも欠席するのも自由である。それ
でも一応はカレッジの英語クラスのひとつである。先生は優しいから何も文句
を言わない。カリフォニアの州政府の補助金で成り立っているから授業料は無
料。そのかわり、単位は取れない。単位を取りたければ、授業料を払って受け
る同じ内容のクラスが別にある。それにしても、州政府は「金がない、金がな
い」と言いながら、英語のできない外国人に無料で英語を教えてくれる。アメ
リカはありがたい国である。
いや、アメリカの全州がそうかはわからない。アメリカは州によって法律が
異なるから、カリフォニア州だけかも知らない。

 英語のクラスが終わる頃になって、マリアが丸い鍋を抱いて入ってきた。彼
女は子供のいるメキシカン女性である。もちろんこの英語クラスの生徒である。
今日は彼女の誕生日とかで、朝9時から始まっているクラスに、クラスの終わ
る12時前にやって来た。家で、料理を作っていたようである。マリアと何人
かが、教室内の横にあるカウンターに料理を並べた。
 カウンターの右端に使い捨ての紙皿、その左に缶入りのペプシコーラが並ん
でいる。缶の後ろにはペプシコーラが入っていた空き箱が雑然と置かれている。
ペプシの左には大きめの瀬戸物の皿に黄色い油揚げのトリティアが盛られてい
る。さらにその左には直径40センチ、深さ40センチほどのステンレス製の丸鍋。
中にはセビッチェが入っている。セビッチェはジャコウよりも小さな生の海老
と小さく刻まれたたまねぎ、酢、ライム、オリーブ油、チリを和えたメキシコ
人の好きな料理である。これを硬いトリティアに好きなだけ乗せて、素手で食
べる。カウンターにナイフやフォークがないのがわかる。

 フリムン徳さんの教会で、礼拝の後、よくやる料理の持ち寄りのポットラッ
クはもっと料理の種類が多い。白人とメキシカンの料理の違いなのだろうか。
セビッチェをみんなで「おいしい、おいしい」と言いながら食べた。特に白人
の英語の先生はこのメキシカン料理が好きらしく、口に入れるたびに、「おい
しい、おいしい」を連発し、誰よりも一番多く食べた。おいしいという言葉の
連発は、「遠慮なく、沢山食べるよ」という意味のようである。しばらく食べ
て、一人、二人と静かに教室を出て行った。フリムン徳さんも頃合いを見計ら
って、教室を出ようと立ちかけた時、斜め向かいの二人の女性が財布から1ドル
札やら5ドル札を取り出だして、勘定していた。「何のための金勘定なのか」
と少し気にしながらも、「セビッチェ、サンキュー」と言って教室を出た。

 車に乗って、走り始めた途端に、はっと気がついた。教会のポットラックと
は違うのだ。 あの二人の女性がお金を財布から出していたのは、セビッチェ
の代金だったのだ。「徳さん、遅い! もう、年やのう」。金を払わないで食
べる教会のポットラックとは違ったのだ。「これはえらいこっちゃ、ただ食い
になる、日本人の恥になる、日本人の信用問題だ」。頭がそわそわし出した。
アメリカに住んでいると、日本人の恥、日本人の信用は一番気になる。一応フ
リムンでも日本人の代表である。35年以上もアメリカに住んで、アメリカ人
になりきれない原因はこの日本人の恥、日本人の信用問題という目に見えない
重いかたまりを心の中に抱えているからかもしれない。

 ちょうどいい具合に、すぐ近くに行き付けのバンク・オブ・アメリカがある
ことに気がついた。慌てて車をバンク・オブ・アメリカへ飛ばし、ATMでお
金を引き出し、クラスへ戻った。まだ、先生と一人のメキシカン女性がいた。
「手持ちのキャッシュがなかったので、銀行でおろしてきました」
と、少しだけ値打ちを付けながら、10ドル札を渡した。1ドル札2枚と、5
ドル札1枚のお釣りが返ってきた。フリムン徳さんは2ドルだけ取って、5ド
ル札は戻した。セビッチェの値段は3ドルだったのである。8ドル払ったこと
になる。5ドル札を受け取っておけばよかったのに、ええ格好しいの自分に苦
笑いをした。メキシカンのマーケットで買うメキシコ料理のボリートが7ドル
ちょっとだから、ボリートを買って食べたことにして、日本人の信用を守った
ことにしよう。日本人の信用を守ったうれしさと、少ない年金生活の哀れさが
フリムン徳さんの胸の中で、踊ったり、跳ねたりしたひと時だった。
                            フリムン徳さん

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