「前歯の一本欠けた写真」第82号
                                    

2013.4.26

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桜も終わり、若葉がまぶしくなりました。フリムン徳さんからアメリカ便りが
届きましたので、配信させていただきます。
従来、この「フリムン徳さんのアメリカ便り」は単純なテキストデータにより
送信しており、また、別のファイルを添付するようなことはなかったのですが、
この度の話題がある写真に関するものであるので、ご参考までにその写真を添
付させていただきました。ただ、この写真を開かなくても意味は通りますので
お手を煩わすこともないかも知れません。
ご多忙のところ、恐縮ですが、お読みいただければ幸いです。
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「フリムン徳さんのアメリカ便り」第82号『前歯の一本欠けた写真』
 
 大事な記念写真の前歯が一本欠けている。こんな記念写真見たことがない。
誰もが首を傾げたくなるような写真。横5列に並んだ総勢64人の記念写真の最
前列、11人掛けの座席の中ほどに空席があるのである。記念写真で、撮影時に
欠席した人の顔写真を写真上部のスペースに貼り付けてあるのを見かけること
があるが、この記念写真ではそのような貼付写真はない。その代わり、欠席者
があるのが分かるように空席を作ってあるのである。そしてその空席に誰が座
るべきだったか分かる仕掛けがあった。

 この写真を人間の顔にたとえると、前歯が一本欠けた顔である。前歯が一本
欠けた顔は、どこか間抜けで、哀れで、人を食って歯が欠けたような(これは
フリムン徳さんの駄洒落でごじゃります)顔である。最前列の真ん中の椅子に
主がいない空席の写真は、また、何かが起こったことを暗示している。少し変
であり、奇妙である。写真屋さんもこんな歯の欠けたような記念写真を撮るの
は初めてのことだったろう。でも、フリムン徳さんには一生忘れることのでき
ない写真となった。

 2012年10月27、28、29日に東京で開催された『喜界島百の台会』昭和18年喜
界島生まれ(69歳)の同級生の記念写真である。還暦以降3年に一回開かれる
全喜界島同級生の東京大会の記念写真なのである。いったいどうしてこんな前
歯の一本欠けた写真を撮ったのか。なぜ詰めて寄せなかったのか、なぜ、椅子
をひとつ減らさなかったのか。なぜみんなが反対しなかったのか。初め見た時、
は全く腑に落ちなかった。でも、そのうちフリムン徳さんには分かってきた。

 この同級会に出席するために、フリムン徳さんはアメリカから日本に渡って
きた。故郷喜界島を15歳で出て、大阪、南米パラグアイ、アメリカと渡り歩き、
もうすぐ70歳である。しかし、一度も全国喜界島昭和18年生の同級会に出席し
たことがなかった。フリムン徳さんはどうしても生きているうちに一度は、喜
界島の同級会に出席したかったのであります。
 
 この同級会に出席するために、フリムン徳さんは2年がかりで年金から費用を
ひねり出した。大会初日の10日前に、フリムン徳さんはアメリカから母親のい
る奈良県大和郡山市に着いた。ところが、大会の5日前に、フリムン徳さんは、
突然倒れて、病院へ運び込まれた。

最初にフリムン徳さんを診た医者、
「もう、この人は死んでいる」。
フリムン徳さんの担当になった医者、
「あと二時間しか持たないだろう」。

 東京、大阪、喜界島から親類縁者が駆けつけ、アメリカから嫁はんも飛んで
来た。嫁はんはすっかりあきらめていた。証拠がいっぱいある。
皆が慌てふためいているのを尻目に、フリムン徳さんは水の流れていない三途
の川の岸に立って、天国のウヤフジ達と会っていた。手の届くほど狭い三途の
川の向こう岸のウヤフジ達は、皆ふくよかな顔で幸せそうだった。皆さん髪の
毛が短く、同じ白い服をきて、男女の見分けがつかなかった。子供はいなかっ
た。天国へ行くのはほとんどがこの世での人生を全うした、おじいさん、おば
あさんだからだろう。

しかし、天国のウヤフジ達は、
「徳市よ、おまえはこちら側に渡って来るのはまだ早い」。

フリムン徳さんはこの世へ追い返された。誰もがそう簡単に出来ない、2日間
の天国旅行だった。目的の同級生大会の3日前に天国から生きて帰ってきたが、
集中治療室から抜け出して東京の同級生大会に駆けつけるのは、いかに無鉄砲
なフリムン徳さんでもできなかった。天国旅行は疲れる。結局、フリムン徳さ
んの何十年来の希望は、日本にいながら、目前にしながら達成できなかった。
 
 でも喜界島の同級生は出席できなかったフリムン徳さんの魂をアノ空席に座
らせて写真を撮ってくれたのだ。アノ空席には世にも稀な天国旅行から帰って
きたフリムン徳さんの魂が座っているのだ。前歯の一本欠けたような空席の椅
子は、喜界島同級生との深い絆、暖かい友情の空席の椅子である。同級生の皆
さん、愛ガトウ様ドー、愛ガトウ様ドー!!
                          フリムン徳さん

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